ソラコムの年次カンファレンス「SORACOM Discovery 2021」が、6月22日~24日までの3日間、オンラインで開催された。24日にはKDDI株式会社 サービス企画開発本部 5G・IoTサービス企画部長 野口一宙氏が登壇し、同日にリリースされたソラコムとのハイブリッドIoT基盤「グローバルIoTアクセス」の内容と、KDDIが推進する5Gソリューションについて説明した。本稿ではその内容を紹介する。
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KDDIは約20年前の2001年からIoT事業を推進してきた。IoT法人契約回線数は、IoTが話題になり始めた2015年頃から急激に拡大し、21年3月には1800万回線を突破した。KDDIは通信インフラ企業だ。しかしIoTビジネスの裾野が広がるにつれて、通信以外の要素も含めてトータルに支援してほしいという顧客のニーズが増加。ソラコムを始めとするパートナー企業と協力しながら、デバイスやクラウド、データ分析やAIなども包括したIoTプラットフォーマーとして拡大してきた。
KDDIのIoT事業は今、グローバルへと展開している。その嚆矢となったのが、2019年にトヨタと共同で発表したコネクテッドカーの「グローバル通信プラットフォーム」だ。クルマに搭載されたICT端末からの、国・地域ごとに選定された通信事業者への自動的な接続・切替と、通信状態の監視を統合的に行うIoT基盤である。
このモデルを、自動車業界から他の全産業へと拡大するという構想が、KDDIの「世界IoT基盤」だ。パートナー企業のさまざまなアセットを融合し、顧客のグローバル展開を支援するビジネスプラットフォーム。データ分析においては、すでに日立や東芝との協業を発表している。そしてあとで説明する、ソラコムとの共同サービス「グローバルIoTアクセス」も、この枠組みの中に含まれる。
KDDIのIoTグローバル展開における強みは主に二つに分けられる。「グローバル標準」と「ローカライズ」だ。グローバル標準とは要するに、海外でIoTを実装する際に必要なモノ・コトを包括的に提供するということだ。法規制や認証取得にも対応する。またローカライズというのは、現地ごとの個別対応やサポートだ。KDDIは世界に100以上の拠点をもち、約5,900名のスタッフが対応している。
こうしたグローバル規模の強みを、ソラコムと共同でさらに拡張していくのが、6月24日にリリースされた「グローバルIoTアクセス」である。
KDDIの海外キャリアとの連携基盤と、ソラコムのIoTプラットフォーム技術を融合し、サービス化したのが「グローバルIoTアクセス」だ。
まずKDDIとしては、主に2つの価値を提供する。1つは、au向けローミング回線(世界データ定額)との共同調達により、低廉なIoT通信サービスを提供できることだ(月額で、通信料は対地毎の従量課金)。1回線(SIM1枚)から低廉な料金で利用できるため、スモールスタートでIoTを始めたい企業にとっては大きなメリットとなるだろう。また、ローミングのみならず、現地キャリアのプロファイルを入れて通信サービスを個別開発することも、ソラコムの技術によって可能だという。
次に、広いカバレッジだ。KDDIは200以上の国と地域まで、ローミングエリアの拡大を目指している。「日本の輸出上位国、そしてニーズの高い国と地域から優先して、着実にエリア化を進めています。すでに100か国以上、130の事業者との合意が済んでいます。2022年3月までに200以上の国と地域での提供を予定しています」と野口氏は説明する。
なお、法規制が厳格な中国については、中国系香港キャリアのCTG、CMIの回線をKDDIが再販し、さらにKDDIの北京ネットワークオペレーションセンターが運用保守まで一体型で行うことで、対応する。
さて、ソラコムの提供価値は、次のとおりである。まず、ソラコムの技術により、KDDIやソラコムの各種通信サービスを1つのコンソールで一元管理できる。ソラコムのIoTプラットフォームと同様のUIで、各地のSIMのステータスの確認や通信回線の追加・変更・廃止の設定などが可能。もちろん、そこからソラコムがもつ豊富なサービスを利用することも可能だ。また、KDDIの閉域網(WVS)とセキュアに接続できる「KDDI WVS プラットフォームGW Air Connect」の設定も行うことができる。
さらに、ソラコムは提携キャリアとのネットワーク接続ポイントである「ローカルブレイクアウトポイント(LBO)」を日本、ドイツ、アメリカの世界3拠点に設置しているため、ローミングの課題となるネットワークの遅延リスクを低減できる。野口氏は、「KDDIとソラコム、お互いのいいところを融合して、お客様に価値を提供していきたい」と述べている。
なお、今後の提供サービスとして、「グローバルIoTルーター」が2021年夏に発売予定。各国のバンドに対応し、海外認証も取得した汎用性の高いIoTルーターである。また、デバイスのキッティングや保守を一括提供するデバイス管理サービスも、2021年秋に提供される予定だ。
5GとIoTの関係について、野口氏は次のように述べる。「4Gは、スマートフォンの時代の技術でした。日常生活にモバイルが浸透し、映像や音楽、買い物、コミュニケーションなどがスマートフォン1つで便利に行えました。それに対して5Gは、IoT化が進んだ世界を意識した標準になっています。つまり、IoTが加速して、社会全体がコネクテッド化される際に必要とされるインフラだといえます」。
また、5Gは高速・大容量などの無線技術が注目されるが、それだけではないと野口氏はいう。野口氏が強調する5Gの特徴は、MEC(Multi-access Edge Computing:メック)だ。MECとは、端末に近い場所に(クラウドの)サーバーを分散配置することで、通信のリアルタイム性や応答性を向上させるしくみである。5Gにより、「クラウドがよりエッジ側に近づいてくる」ことが重要だと、野口氏は強調する。
より具体的にいえば、LTEの場合には、基地局に近い場所にサーバーを設置したとしても、接続するモバイル端末は元のサーバーに接続するため、遅延が大きくなる。これに対して、5Gは基地局に近いサーバーへアクセス制御する技術が標準化されているので、短距離で折り返すことができる。
このメリットを明確にカタチにしたのが、KDDIとAWSの協業による「AWS Wavelength」の提供だ(2020年12月~)。AWS Wavelengthは、AWSのサービスを5Gネットワークのエッジに置くことで、モバイル端末からアプリケーションへの低遅延接続を可能にするエッジ・インフラサービスだ。
そこで、AWSとKDDIは協業し、au 5Gネットワーク内にAWSのコンピューティングサービスとストレージサービスを配置してデータ処理を行えるしくみを構築した。つまり、運用はKDDIが行うのだが、重要なのはAWSと同じ使い勝手でそれを利用できるということだ。従来からAWSでIoT環境を構築していた事業者は、それと同じ使い慣れたAPIやツール、機能を使用しながら、アプリケーションやサービスを展開することができるのだ。
5Gのニーズ状況はどうなっているのだろう。2021年5月時点でのKDDIへの引き合いの40%は、製造/自動車分野だという。AGVやロボットの制御、画像解析、スマートファクトリーなどだ。次に多いのが放送/メディア業界で、全体の15%を占めている。
KDDIが注力する5Gのユースケースの一つは、XRだ。その中心的な役割を担うデバイスが、5Gスマートフォンと連携できるスマートグラス「NrealLight」である。重さは106グラムで、きわめて軽量だ。「106グラムなので、サングラスのような感覚で使うことができます。当初は個人使用を目的に開発したのですが、実際には法人からのビジネスユースでの問い合わせや購入が増えてきています」と野口氏は語る。
さらに、このNrealLightを、同じく同社の「VistaFinder Mx」という遠隔作業支援システムと組み合わせることで、ハンズフリーでの相互的な遠隔作業支援を行うことが可能だ。つまり、熟練した技術をもたない作業者でも、遠隔地からの指示を音声で聞き取り、かつスマートグラスの奥に映し出された高精細なAR映像を参照することで、確実に作業することができる。「VistaFinder Mxはすでに100社以上の導入実績があります。今後は5G環境で4K映像の伝送も行うことで、活用の幅も広がると期待されます」と野口氏。
また、5Gとドローンやカメラの技術の融合も期待される。KDDIとセコムは2019年に、東大阪市花園ラグビー場で、5Gやドローン、カメラ、ロボット、AIなどをフル活用したスタジアム周辺警備の実証実験を行った。この取り組みは、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)が開催する「MCPC award 2020」において、「モバイルテクノロジー賞」を受賞し、さらには「グランプリ」と「総務大臣賞」に選ばれた。
簡単に概要をいえば、ドローンやロボットなどから収集した映像データを5Gで転送し、AI解析により問題を検知したら警備員が急行するという実証実験だ。映像を高精細で転送できるという5Gのメリットにより、AIを活用した画像解析がさらに活かされるという点がポイントだ。
また、ここで重要な役割を担っているのが、「KDDIスマートドローン」サービスだ。ドローン本体にLTEモジュールを搭載することで、遠隔自律飛行できるしくみを、保守サービスなどを含めてパッケージで提供している。利用者は、ラジコンのように現地で操作するのではなく、あらかじめ運行ルートをインプット可能。また、管理者は遠隔で飛行状況を監視できるほか、一時停止や緊急着陸の操作を行うことができる。
最後に野口氏は、5Gはあくまでインフラであり、お客様のビジネスの手段であると強調した。また、その際に重要なビジネス共創の枠組みとして、「KDDI 5G ビジネス共創アライアンス」を紹介。これは立場や業界をこえて、パートナー企業と共に5G活用によるビジネス創出をしていくしくみだ。またこのアライアンスには、ローカル5Gの事業者も参加しており、「パブリック5Gもローカル5Gも共存していくという考え方のもと、ビジネス共創に取り組んでいく」と野口氏は述べた。
SOACOM Discovery2021レポート総集編イベント全体のおさらいと、各記事へのリンクを掲載尾崎 太一技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。
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