※本稿は、山田昌弘『新型格差社会』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
写真=時事通信フォト東京大学・本郷キャンパスの赤門=2021年2月25日、東京都文京区全ての画像を見る(6枚)他人と円滑に意思疎通をするコミュニケーション力を重視する傾向は、あらゆる企業の採用で広がっています。
30年程前までは、公務員試験ではペーパーテストさえ合格すれば、面接はほぼフリーパスでした。しかし最近は、ペーパーテストの成績の比率が下がり、面接の印象が良くなければ合格できなくなりました。多くの企業も採用で重視する項目に「コミュニケーション力」を挙げており、「真面目にコツコツ努力することが得意、でも人と喋るのが苦手」な学生は、就職活動で自分をアピールできず、何十社受けても一社も内定が出ないことが珍しくないのです。
学生もそのことを自覚していますが、コミュニケーション力には性格も関係するため、一朝一夕にはなかなか変えられません。コミュ力重視の就職活動に無理やり自分を適応させることに疲れ果て、就活をやめてしまい家に引きこもってしまう学生もいます。最近は就活指導を専門とする塾もあちこちにでき、そうした場では面接指導なども行っています。膨大なデータが蓄積されていて、何々省採用向けの面接、銀行採用向けの面接など、採用先に合わせた面接指導もしています。当然のように安くない受講料がかかります。
社会の動向に通じている人の中には、「今後の社会を生きていくためにはコミュニケーション力が必要だ」と早くから気づき、インターナショナルスクールや先進的な教育を行っている学校に子どもを通わせている親も少なくありません。以前、ある公立の科学館に講演に行ったのですが、そこで行われていた子ども向けの科学教室では、小学生になったばかりの児童の取り組みを母親たちが参観していました。きっとその親たちは、自分の子どもがサイエンスに興味を持つことを願って、その教室に申し込んだはずです。科学実験をしている子どもたちを熱心に見ている母親の姿に驚いたものです。ちなみに費用はほとんどかかりません。
子どもの知的な興味や関心は、親自身の教養に対する関心に大きく左右されます。家に大きな本棚があって、そこにたくさんの本がある家庭に育った子どもと、まったく読書をしない親のもとに育った子どもでは、知的好奇心に大きな格差が自然に生まれてしまうのです。OECD(経済協力開発機構)の調査でも、自宅にある本の冊数と子どもの学習成績の間には相関があるという結果が出ています。
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