Stillpoints(スティルポイント)の意味は物理的には静点、静止点(の複数形)あたりだろうけど、座禅でいう不動心というような意味を重ねているかもしれない。力学的平衡と感応的な平衡のダブルミーニングだ。以下、20年ほどの来歴があるアメリカのアクセサリーメーカーのユニークな仕掛けと音質効果を紹介しよう。
今回視聴したのは「ULTRA SS V2」と「Ultra 5」のオーディオ機器用のフット(インシュレーター)と「Ultra Base」という脚受けベース、そしてアナログ盤用のスタビライザー「LPI V2」だ。「V2」と付いた2モデルが新製品となる。
インシュレーター Stillpoints
ULTRA SS V2 ¥44,000(税込、シルバー、1個)¥55,000(税込、ブラック、1個)●耐荷重:453kg●高さ:38mm〜43mm●幅:33mm〜35mm●重量:237g
ULTRA 5 ¥165,000(税込、シルバー、1個)、¥187,000(税込、ブラック、1個)●耐荷重:1361kg●高さ:47mm●幅:44mm〜76mm●重量:1510g
ULTRA BASE ¥16,500(税込、シルバー、1個)、¥22,000(税込、ブラック、1個)
球体のコンビネーションによってオーディオ機器の外部振動・不要共振を低減する、新しいタイプの共振アイソレーション・システム。ULTRA SS V2には共振機構がひとつ、ULTRA 5には5つ組み込まれている。プレーヤーやスピーカーに取り付けるための様々なサイズのネジもオプションで準備されている。
インシュレーターの方は“共振アイソレーション・システム”という設計理念で作られている。“縦振動を横振動に変え、熱に変換し、消滅させる”算段だ。
本体内部には長方形の板が機械振動を受ける接触片になっていて、そのエレメントが振動を吸収する仕組だ。この長方形の接触片は2本のビスで本体から脱落しないようにしているのだが、触るとけっこう遊びが大きい。簡略化された透視図を見ると、中央の太い軸ネジの先に円錐形の終端部品が取り付けられ、それを複数の鋼球で取り囲み、支持する仕掛けのようだ。
これは乗せた機器から伝わる振動を、限られた数の接点で受けて熱に変換するという振動対策の基本を具現化したもの。広い面積で受けた微振動は硬い軸心を通じて高音速で接点に導かれ、広い→狭いという面積の差で微振動は単位面積あたりのエネルギーが増し、振動を処理しやすくするわけだ。レンズが焦点を作る仕掛けと似ている。
さらに付け加えると、そうした縦方向の力を受け取る軸心は、円錐状端面と自在に動く球の組合せにより自動調心しているように思える。傾きや支持場所の重さの格差がある設置状態でも柔軟に受け止めてあるべき静止状態に力学的平衡を維持する仕掛けだ。このように“柔軟にして安定”が理念となると、やはり不動心の境地を思わせる。
まずは小型モデルのULTRA SS V2から視聴する。これは振動吸収用エレメントが1個のみである。SACD/CDトランスポート、アキュフェーズ「DP-950」の底部で3点支持させる。ただし底板が頑丈なものでないと故障につながりかねないので充分注意されたい。ヤワな底板の場合はフレームよりにするか、元からある脚部の下にあてがう、あるいは取り付けネジを用意して脚部ごと挿し換えることになる。
これでCD、ダイアナ・クラール『Turn Up The Quiet』や、ゲルギエフ指揮の『春の祭典』など聴くと、音像の細部のフォーカスが明瞭となり、いわば衣装のひだの綾模様が実体的に浮かび上がる印象。それに、耳に付きやすい帯域をつまむわけではないけれど、弦楽器の擦過音の混じり具合が明らかになって弱音まで奏法が明瞭になるのも結構。回遊魚のように漂うあいまいな響きが三次元的な運動の軌跡に変化するのも本質的な効果といえる。
底部の三点支持は載せる機器の重心を捉えて狭い三角領域にするほど、音が明晰になる傾向がある。機器の振動が駆体を伝わり吹きだまりやすくなる四隅を固めず、開放空間に振動を逃がしやすいからだ。ただし底部の強度の問題もあるし、重い機器だと安定した支持も必要なのでほどほどにしたい。
次にUltra 5を同様に試すと、これは音の重心が下がり大スケールの音場構築力となって感動的だ。体積がずっと大きいしエレメントの数が5つに増えているのだから、こうした変化は当然か。それにしても音量感が確かに増し、エネルギッシュにして高密度な音として再構築されるこの変化は格別だ。
ウッドベースの一音ごとの弾力感が躍動的なフレーズをもたらし、楽音全体の生気をいやます効果! またダイアナ・クラールのささやき声が彫り込まれて体温と脂粉が伴ってくる現認感覚! さりげないリバーブの三次元的な展開が透視され、実体的な音像と響きの間の時間と距離が克明になる様子など録音現場を目撃する仮想体験となるのだ。
すでに振動対策を充分に施しているはずの高級機でこういう堂々たる音の改質効果が得られとは驚きだ。脚ごと交換したらさぞかしと期待が持てるというもの。ただし取り付け用の変換ネジはオプション扱いだ。
DSD対応ネットワークプレーヤー LUMIN
D2 ¥423,500(税込、シルバー)、¥465,300(税込、ブラック)
●サポートフォーマット:DSF(DSD)、DIFF(DSD)、DoP(DSD)、FLAC、Apple Lossless(ALAC)、WAV、AIFF、MP3、AAC、他●対応サンプリングレート/ビット数:PCM=44.1kHz〜384kHz/16〜32ビット、DSD=5.6MHz/1ビット●外付けUSB HDD:シングルパーティションFAT32、NTFS、EXT 2/3のみ対応●接続端子:アナログ出力2系統(XLR,RCA)、デジタル出力1系統(BNC)、USB端子2系統、他●寸法/質量:W300×H60×D244mm/2.5kg
次にハイレゾ音源用としてネットワークプレーヤーのルーミン「D2」に試す。音源はカルロス・クライバー指揮、ウィーンフィルの『ベートーヴェン:交響曲第7番』(fs=192kHz)。
少し中域をつまんで華やかさや艶やかさを演出した古いアナログ録音は、安価な再生装置でもきれいに聞こえるように配慮したのだろう。しかし、そこから楽音同士の響き合いが析出され、華美に走らず、むしろ謹厳にして颯爽とした指揮者の芸風が明らかになって喝采することになる。このように、大きな楽隊を制することで生まれる充溢感が拡張された音場空間で再現されるわけで、これはオーディオ志向の果に到達できる音楽体験の醍醐味だ。
次はアナログディスクで試す。ターンテーブルはテクニクス「SL-1000R」。ディスクはケルテス指揮、ロンドン交響楽団の『ハーリ・ヤーノシュ』とピアソラの『エル・タンゴ』。
当初は底板で3点支持を試みたのだが、凹凸やネジの頭が頻出して適地を探すのに苦労した。効果ははっきりしていて、音場の三次元展開や個々の楽器の音色の幅やデュナミーク(強弱)の幅が拡大する。当然テンションの高い演奏になるけれど、音楽のスケールに見合った最低域までの安定感や質量感はもうひとつ。
そこで本体の脚部の下にUltra 5を介在させてみた。さらに置台側に「Ultra Base」をあてがう。すると押し出される低域の音圧感が格段に向上し、『ハーリ・ヤーノシュ』のおおげさな戦場描写の戯画が舞台劇風に際立ってくる。クラシックのオーケストラではめずらしいサクソフォーンの哀れっぽい調べも音色のグラデーションが増してお見事。ナポレオン軍の敗退にふさわしい情調だけれど崩れすぎずに格調も高いのだ。戦闘を表す総奏の力強さとスケール感も驚愕的に向上する。
ピアソラの5重奏団はというと、ウッドベースやピアノの重い情動が脈絡を明らかにし、バンドネオンやヴァイオリンの妖美も浮き出してくる。前衛風の打楽器の扱いも際立つのだが、身体の芯から打ち鍛えるタンゴの律動がいつのまにか聴く側に転移する魔法は隠れもない。
最後にスタビライザー「LPI V2」を試す。本体は底部にエレメントがむき出しになって武骨な印象だが、これも先述した本質的な音の改善効果が際立って素敵だ。緻密にして膂力(りょりょく)が伴う質量感の向上、表現域の拡張、媚態レベルの情動の喚起力などすこぶるつきの変化だ。
そもそも、スタビライザーは重しの効果により回転するディスクのすべりを無くし、またビニール盤の共振を防ぐねらいがある。しかし現実には純粋な重量自体というものは存在せず、重しの材質感が加味される傾向はあるものだ。それに、あまり重いとビニール盤がたわんで悲鳴を上げるかもしれない。
そこでLPI V2は5つの接触片にて充分な接触面積を確保し、また分散配置により表面状態の偏差を吸収する柔軟性を持たせているわけだ。
というわけで、Stillpointsの振動対策製品の価格は結構な水準だが、その効果は代替できる手段が考えにくいほど高水準だ。特に物量を充分与えられた高級機で本領を発揮する逸品を歓迎したい。
アナログレコード用スタビライザー Stillpoints
LPI V2 ¥110,000(税込)●高さ:30mm●幅:76mm●重量:830g
アナログレコードのラベル部分に載せて使用するスタビラーザーで、レーベル領域に存在する微振動を吸収し、再生音に鮮明さ、繊細さ、広がりを与えてくれる。1.12インチ(約28.45mm)までのスピンドルに使用でき、スピンドルが短い場合は付属のアダプター(写真右の小さなパーツ)を組み合わせればいい
※今回の原稿には、設計思想についてメーカ-が公表した以外の筆者独自の解釈が多く含まれています。
株式会社ブライトーンはお手持ちのオーディオをさらに一段高みに引き揚げる「突き抜けたオーディオ機器を提供する」ことを目的として各種音響機器(オーディオ、楽器、AV)の開発・販売を行なっています。
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