2021年1月15日~17日に幕張メッセで開催されるハズだった第39回東京オートサロン2021は、コロナウイルス感染拡大防止のため、残念ながらリアルイベントは開催中止になってしまいました。
日本最古の自動車専門誌「モーターファン」やモータースポーツ専門誌「オートスポーツ」、そして我がclicccarの発行会社である(株)三栄[※2019年に(株)三栄書房から社名変更]主催で、1968年に第1回東京レーシングカーショーを開催したのを発端に、1983年に東京オートサロンの前身となる「第1回東京エキサイティングカーショー」を開催。1987年の第5回から「東京オートサロン」と名称を変更し、東京・晴海の国際展示場、有明の東京ビッグサイト、そして千葉・幕張メッセへと会場を移しながら年々、規模を拡大。近年は自動車メーカーもこぞって出展し、2020年には出展社数438社、入場者数は3日間合計で33万6060人! 世界一級のカスタムカー系イベントへと成長してきました。
しかし、2021年は…(涙)。長年の歴史の中で、車両もクルマ好きも一同に集まる東京オートサロンのリアル開催中止は初めてです。
そんな長い歴史をたどってきた東京オートサロンに、これまた長年いろいろなカタチで関わってきた国際モータージャーナリスト・清水和夫さんに、コロナ禍でのカーショーのあり方、カスタムカーの世界は今後どうなるのか、どうあるべきなのか…そんな質問をぶつけてみました。(clicccar:永光 やすの)
clicccar永光やすの(以下やすの):清水さん、リアルの東京オートサロン2021が中止になってしまいましたね…。
清水和夫(以下、清水):それは世界的な流れだからしょうがないね。そうそう、今は取材者のひとりとして東京オートサロンにほぼ毎年、足を運んでいるけど、昔はオレ、出展者側だったんだよ。オレが起こしたスバル系パーツを企画・製造・販売する会社「プローバ(PROVA)」は、昔は東京オートサロンにも出展していたからね。
やすの:規模をどんどんと拡大してきた最近の東京オートサロンですが、清水さんはどう感じていますか?
清水:エキサイティングカーショー時代や平成初期の東京オートサロンは、OPTION誌が音頭とってチューニングカーばかりを集めたショーだったよね。それが近年は自動車メーカーがどんどんハバを効かせてきて、新車発表の場にもなっているじゃない。そうなるともう、オレ的には全然面白くない。東京オートサロンには冷めちゃったね。メーカーがお金たくさん持って派手にやって、コンパニオンもたくさん使って。まぁ主催者は儲かるかもしれないけど、もう一回原点に戻り、東京オートサロンのスピンオフしたイベントが必要なんじゃないかって、ずいぶん前から思っていた。チューニングカー、カスタムカーが中心で、もっと手作りで、お金かけないで、コンパニオンなんか要らないから。
やすの:OPTION主催では2004年に「OPTIONパワーマーケット」というフリーマーケットを、2006年からは「エキサイティングカーショーダウン」という昔のエキサイティングカーショーみたいなことをやりましたけど、どちらも尻切れで…。
清水:フリーマーケットみたいなのは面白いよ。ヨーロッパには自動車系のフリマがたくさんあって、イタリアの古い街に行くと日曜日の朝、みんながいろんなものを持ってくる。そういう庶民的なノリって必要なんだよ。
やすの:東京モーターショーと東京オートサロン、清水さんはどうあるべきだと?
清水:東京オートサロンのほうに自動車メーカーが参入してきたことで、東京モーターショーってつまらなくなったと思わない? 東京オートサロンのほうで凄いクルマの発表会とかをガンガンやったり。例えば2020年のGRヤリスみたいにね。そういうのはさ、自動車メーカーの考え方がまったく間違っているんだよ。入場者数を見ても若者は東京オートサロンのほうが多い。まぁ自業自得だとも思うけど。
東京オートサロンが自動車メーカーを誘致、解放したように、東京モーターショーのほうを東京オートサロンに開放してくれたほうがいい。そうしたらもっと、自動車メーカーは好きにできる。
やすの:世界のモーターショーがコロナ禍にあって、中止やオンラインに変わってきていますね。
清水:毎年1月にあるCESが2021年はオンラインになったよね。毎年3月に行われているスイスのジュネーブショーも2020年、2021年と2年連続中止で今年はオンライン。9月のドイツ国際モーターショーはフランクフルトからミュンヘンへと場所が変わったことで話題になっているけど、リアル開催できるかどうかは今のところギリギリ。アメリカのデトロイトショーも2020年は中止で今年は6月に完全屋外でのショーとして開催される予定だけど、これもオンラインになる可能性が高い。
でもさ、今年のCESを見てみると、むしろオンラインのほうがいいのかも分からない。見てみてよ、すごいサイトになってるから!
やすの:東京オートサロン2021は、中止じゃなくて今年からオンラインを取り入れています。でも、初めての試み…もっと工夫が必要だと正直、思っちゃったりして(汗)。
清水:単なるバーチャルでもいいんだけど、ツアーガイドがいたりしてもいいよね。人気の谷口信輝クンみたいなキャラクターがガイドやっているコーナーとか。他にもレーサーが見た視点、ラリー屋さんが見た視点、イジったメカニックが見た視点…、それぞれの部屋があり、自分の興味のある部屋に入って、自分に代わってその人がリアルに見て、それをバーチャルでコチラ側が見られる。そんなようなのも面白いと思う。CESはもう最初からオンラインを想定して作り込んでいるから、相当面白いよ。
3月のジュネーブショーの後にある、アメリカ・テキサスで行われるアートやエンタメのショー「SXSW(サウス バイ サウス ウエスト)」もオンライン開催が決まっている。自動車系だけじゃなく、いろんなショー関係でハイエンドのオンラインイベントが増えている。
東京オートサロンもフィジカルで出来ないから、しょうがないからオンラインで…という考え方じゃなく、これからはオンラインの時代、オンラインがノーマル!というふうに考えれば、もっとオンラインの質を上げていくことができる。だってさ今の時代、iPhoneだけでYouTubeのLIVE配信ができるんだもん。
やすの:今の世の中、将来は世界的にエンジン廃止、BEVオンリー!みたいな流れがあってナンナノヨ!って感じなんですけど、チューニングの世界にもBEVの流れってきちゃうんですかねぇ。
清水:電動化といっても、マイルドハイブリッドみたいな12V、24V、48V、600Vもあるし、政府の言う「電動化」の定義が曖昧だから何とも言えない。でも、エンジンだけで動く自動車は限りなくなくなっていくよね。やはり燃費を良くするには、バッテリーモーターをある程度使ったほうがいいから。
すると、チューナーがモーターやバッテリーのチューニングをするとか、ソフトをイジるとか。そうするとエレクトロニクスやソフトウェアとか、コンピュータ系に詳しくないとダメだよね。チューナーの技術? っていうか知識の内容も変わってくる。
やすの:エンジンバリバリチューンとか盛りモリのエアロチューンとか、OPTION系ハイパワーチューニングの世界は…好物なんですけどね。
清水:今日のオートサロンTV撮影に来ていた「ロッキーオート」のRocky3000GTとか、あーいうレプリカチューンのようなクルマは、もしかしたら3Dプリンターを使ってもできるかもね。それならイチからできる。
昔と違って今は金型も簡単に作れるやり方があるんだよ。昔は金型作って1000tくらいのプレスで…っていう時代だったけど、今じゃ3Dプリンターを使って削り出しで作れる。それも全部コンピュータで削るから、パソコンの中だけで作業指示が出せる。そういうところに長けた若いIT系のクルマ好きでセンスのいいデザイナーが増えてこないと、日本のチューニング業界は負けると思う。
コテコテにクルマの下に潜ってパイプ曲げて…っていうのも必要だけど、でも今じゃクルマの下に潜らなくても3Dプリンターで作れるようなこともDX(デジタルトランスフォーメーション)の技術を使えばできるからね。
デジタル技術をいかにチューニングの世界に入れるのか?が勝負だろうな。いちいち試作しなくても、バーチャル空間で作ってみて、3Dで見て、これでいいよね!って。色もその中で変えられる。OKだったらそれで3Dプリンターで型作って…っていう感じ。
やすの:なんか味気ないですね…。
清水:BEVばっかになったら…そうそう簡単にはエンジン車は無くならないけど…、エンジン無いから電気に詳しい人がチューナーになる。モーターとバッテリーでいけちゃうし、その組み合わせのほうがカンタン。むしろエンジンを作るほうが大変!
やすの:東京オートサロンは、自動車大学校系の出展が多いんですけど、そういうIT系技術者を育てる科目が増える?
清水:学生フォーミュラをやっている大学でいうと、2年前くらいの数になるけど、全部で40校くらいが参加しているんだけど、フォーミュラをEVでやっている大学は3校くらいしかいない。でも、ヨーロッパの学生フォーミュラは100%がEV。だから今、そういうEVの世界で日本は欧州に負けている。
東京オートサロンに参加している日本の自動車大学校系も、板金と整備士1級・2級だけじゃなく、デジタル技術を学んで一歩先を見据えていかないと、学校そのものも世界から取り残されていくのかな。デジタル技術をツールとして使って、エンジンもデジタル技術で3Dプリンターを使って作る。そういう世界を創っていかないとね。
やすの:自動車メーカーってITのデジタル系は社内で賄えているんですか?
清水:いやいや、ほとんどサプライヤーに投げているよ。トヨタなんか「デンソーは自分の会社!」だと思っているからね。ホンダもそうだけど、自動車メーカー本体としては組み立て工場と企画・ブランドくらいだから。
自動車の世界にマグナ・シュタイヤーとかIT系専門の大手が出てきている。なので、ソニーやアップルはそういうところでクルマを作れちゃうんだよね。
やすの:チューニングっていう世界は、誰よりも速くしたい、ゴージャスにしたい!っていう感じで分かりやすいじゃないですか。また最近の自動車メーカーも、思った通りに踏んだら速く、ステアリングを切ったら曲がる…みたいなことばかり言っています。今後、人がクルマに求めるものはどうなっていくと思いますか?
清水:2極化していくだろうね。
ひとつは、「安く・快適に・安全に・安心して」。コモディティ化といったらなんだけど、そういう、意識なく移動できればいいねっていう感じ。クルマは単なる移動する道具としての考えね。例えば爪切りだったら100均でも何でもいい、みたいな。
でも、爪切りは物凄い切れ味で鋭い名工が作ったものじゃなきゃダメ!って。これがもうひとつの考え。そういう2極化になるかもしれないね。
やすの:じゃ、東京オートサロンに出展するようなチューニング・ドレスアップ業界は今後はさらに尖がった方向に行く?
清水:オレはチューニング系のチューナーさんたちが、本来の姿に戻るといいビジネスになると思う。コモディティ化が増えるということは、人と違うものが欲しいという人たちがより気持ちが高くなるから、特別なものにはよりお金を出したい!っていう気持ちになると思うんだよ。
知ってるかもしれないけど、今、2輪の世界は面白いよ。ガレージを始めるにも2輪は設備投資が少なくて済むし、スペースも4輪ほどは必要ないし、ガレージジャッキも要らない。2輪の世界は今、ディフェンダーみたいにモダナイズしている。でも、昔のオリジナルのバイクが欲しいという人たちもたくさんいる。古いハーレーのチューニングやレプリカ製作に、いくらでもお金を出す人がいるんだよ。まさに2000GTを今の世界に蘇らせるロッキーオートみたいなね。
でも、アレを4輪でやると大変だけど、2輪ならそんなに難しくない。
アメリカにはそういうカルチャーがあり、そういうチューナーさんがたくさんいる。でもそれがみんなDX、デジタル技術でやっているんだよね。
昔のように油まみれになっているというわけではない。昔はパイプ曲げるのにも大変で、凹まないように砂入れて曲げるとか、高い水圧で加工するハイドロフォーミングで曲げるとか。でもそういうのは物凄い設備が無いとできなかったけど、でも今は3Dプリンターで簡単に型が作れる時代。合法か非合法か?はさておいて、今のデジタル技術を使えばもっといろんなカスタマイズができると思う。
やすの:カスタマイズの世界に、よりお金を使って、自分だけの世界を欲する人はいなくならないと。
清水:ロッキーオートのRocky3000GTは3000万円、もう2000GTじゃなくて値段的にはひとつのスーパーカー。でも欲しい人は買うでしょ。それにね、このコロナ禍になってから、日本でスーパーカーの在庫が無くなったって知ってる? マクラーレンもフェラーリもポルシェも、アッという間に売り切れちゃったんだって。まぁさ、R34GT-Rが2000万円の時代。特別なもの、凄いもの、速いクルマにはいくらでもお金を使う人がいるっていうことだよね。
やすの:貴重なお話をありがとうございました! で、今年の清水さんは何を楽しみにしていますか?
清水:もちろん、ラリー! 全日本戦、2020年はコロナ禍で無くなっちゃったから、GAZOOのラリチャレに2回出ただけ。だからウップン溜まってるの! ヤリスCVTを500万円もかけて作ったのに晴れ舞台が少ない!! だから今年2021年はラリーにできるだけ参加したいね。
(インタビュアー:永光 やすの/画像:金子 信敏・土屋 勇人・小林 和久・永光 やすの)
【関連リンク】
StartYourEnginesXhttps://www.youtube.com/user/StartYourEnginesX
オートサロンTVhttps://www.tokyoautosalon.jp/2021/tv/
バーチャルオートサロンhttps://2021.virtualautosalon.jp/
東京オートサロン2021オフィシャルwebサイトhttps://www.tokyoautosalon.jp/2021/
CES 2021https://digital.ces.tech/home
ナビゲーションリスト
■清水和夫さん、今後のカーショーやカスタムカーの世界はどうなっていくと思いますか?カテゴリー
関連記事
ホット記事